PCのマイク端子でXLR接続のダイナミックマイク,コンデンサーマイクを使う

目的

PCI Express接続のボードにマイク入力,ライン入力,SPDIF入力を集約しようと計画していたが,マイク入力だけどうしても集約できていなかった.理由は簡単で,PCI Express接続のサウンドカードであっても,通常は,マイク入力端子はプラグインパワーによりエレクトレットコンデンサーマイクの接続が想定されており,XLR端子接続のダイナミックマイクまたはコンデンサーマイクは接続できないから*1

しかしながら,ちょっと着眼点を変えると,スマートフォンに対してXLR接続のダイナミックマイクコンデンサーマイクが接続できるオーディオインターフェースは存在する. 今回は,それを用いてPCのオンボードおよびサウンドカードのマイク入力端子にてコンデンサーマイクを使用することができたのでまとめておく.

名称 規格 製造会社 備考
オペレーティングシステム Windows 10 Pro 64ビット,22H2 マイクロソフト
サウンドカード Sound Blaster ZxR Creative マイク入力は6.35mmジャック
オンボードオーディオ HD Audio Realtek Gigabyte製AORUS Mマザーボード
マイク入力インターフェース iXZ TASCAM CTIA端子(3.5mm,4極)のマイクまたはギター入力,単3電池2本必要
CTIA-3.5mmマイク・スピーカー分岐ケーブル WE-ERMCCON-50 WEUTOP Amazon.co.jpで安いものを購入
3.5mmメス-6.3mmオス変換プラグ AC-666 フジパーツ
コンデンサーマイク AT2020 オーディオテクニカ

結論

以下の接続

とすることで,XLRのコンデンサーマイクAT2020を問題なく使うことができた.ファンタム電源はiXZから供給することができる.

その他

XLR接続のマイクを変換ケーブルを使用してPCに接続すると

世の中にはXLR端子-3.5mm3極プラグ(または6.3mm3極プラグ,TRS)は販売されているが,このケーブルを使用して単純に物理的に接続してもダイナミックマイクおよびコンデンサーマイクは使用できなかった.PCのマイク端子は,プラグインパワー と呼ばれ,エレクトレットコンデンサーマイクが考慮されているが,その端子の出力電圧が業界で定まっておらずメーカーによって異なるとのことである*3

ダイナミックマイクは電圧を印加しない仕様*4.一方,コンデンサーマイクはファンタム電源として+48[V]を印加する仕様なので,当然,2~3.3[V]では電圧不足である.

マイクの入力ゲインは,Windowsサウンド設定のレベルタブにあるマイクブーストからあげることができるが,試してみたが,ノイズも増幅してしまい,まったく使い物にならなかった*5

サウンド設定タブのマイクブースト設定画面

スマートフォンにXLRマイクを接続できる機器

今回のTASCAM iXZ以外にも,以下のデバイスで対応できそうではある(動作未確認).

本件の着想に関して

オーディオ周りの電気回路は,素人には難しいところではあるが,「プラグインパワー ライン入力 マイク入力」で検索するとTOMOCA製VX-3LMP*6

というXLRのダイナミックマイク入力をPCのマイク入力レベルまたはライン入力に変換できる機器を解析したブログがあった:
VX-3LMPの回路解析(linear_pcm0153氏のブログより引用)

この内容からすると,マイク入力に対しては,オーディオトランスを介して接続し,PCのマイク端子とオーディオトランスの間にプラグインパワーによる直流カットのための電解コンデンサーを挿入する回路を構成することで,ダイナミックマイクは接続できるようになると思われる.一方,コンデンサーマイクの場合はファンタム電源を供給できるような電源回路が必要となる.

TASCAM iXZのハードウェア

TASCAM iXZはプラスチックとネジ止めされているだけなので,カンタンに分解できる(解像度高めに撮影したので拡大可):

メイン基板裏面 メイン基板表面

CTIA端子に対して,黒色線がGND,茶色線がMICに接続されている.MODEスイッチはマイク設定時,1と3,5と7がショートする.また,PHANTOMスイッチはONのとき1と3がショートする.

MODEスイッチの5と7ショートは,単純に緑色電源LEDのON/OFFであるように見える.一方,MODEスイッチの1と3は,MIC端子へのプラグインパワーを受けて,基板表面のXLR・TSコンボジャックの白色5線でよく見えないがRとLを介して,C1の電解コンデンサー+に入力されている.

ファンタム電源は,基板裏面のXLR・TSコンボジャック横の電解コンデンサー47[μF],耐圧63[V]に印加され,XLRのホットおよびコールドにそれぞれ6.6[kΩ](≒3.3[kΩ]の直列抵抗,R3とR6,R5とR7)を介して実測+45[V]が出力されていた.

基板において,U1は211と印字があるのでオペアンプU2はPH01またはPHO1と印字があるので昇圧のDCDCコンバーターであると思われる. このDCDCコンバーター単品では,TPS61040のデータシートにおけるTypical Application Schematicを見る限り,+28[V]までの出力に思えるが,リファレンスデザインPMP4677*7

TPS61848DBVの昇圧回路
に+47.5[V]の出力回路例があるので,これと同等の回路構成の可能性はある.回路上の部品点数が似ているようにも見える.

改訂履歴

# 日付 内容
1 2024/01/21 TASCAM iXZの基板について追記

参考サイト

  1. プラグインパワーマイク入力へのライン入力を考える | 音響・映像・電気設備が好き(2024/01/21現在)
  2. ダイナミックマイクにファンタム電源がかかっても大丈夫か?|サウンドハウス(2024/01/21現在)
  3. OPA211 data sheet, product information and support | TI.com(2024/01/21現在)
  4. TPS61040 data sheet, product information and support | TI.com(2024/01/21現在)
  5. PMP4677, Low Power boost Reference Design with cascaded NPN - Datasheets.com(2024/01/21現在)

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*1:ESI製MAYA44 eX,Creative製Sound Blaster AE-9などを除く.ESI製MAYA44 eXはソフトウェアでのノイズフィルターが不要なほどきれいなマイク入力できます.

*2:ピンク色のマイク端子を使用する.

*3:実測でオンボードオーディオの場合2[V],Sound Blaster ZxRの場合3.3[V]が出力だった.

*4:作りによっては印加しても問題ないらしく,オーディオテクニカ製AT2040はファンタム電源+48[V]を数秒印加しても壊れなかった.

*5:Equalizer APOやVSTプラグインで対処できる"レベル"ではない.

*6:廃盤であり,後継機種のひとつにVX-3MPがあるがSoundHouseで注文したところメーカー販売終了とのこと(2024/01/15時点).

*7:Texas Instruments社のサイトからはたどりつけず